世界に発信する
昨年の関西大会に引き続き、大阪シアタードラマシティで開催された英語による歌唱のコンクール「全国英語歌唱コンクール(English Vocal Election)」全国大会の審査員を務めさせて頂いた。
この大会は、関東から2枠、大阪、中部、九州と各地から選ばれたグループのアンサンブルやソリスト全30団体が、年齢によるカテゴリーに分かれて、英語による歌唱を競うコンペティションである。
タイトルからはややお堅い印象も受けるが、実際には、振り付けやセリフなども織り交ぜながらパフォーマンスと共に自由に構成されるステージであり、小気味よい進行も手伝って、非常にエンタテインメント性の高いものである。コンペティションの性格を備えながら一つのショーとしての楽しみをしっかりと提供する充実したひと時であった。
冒頭のアナウンスで「自らを世界に向けて発信する」という開催意義が述べられていたが、確かに英語による歌唱は、音楽が国境のない言葉と言われることに加えて、その拡がりや国際性において「世界を意識する」という目的を果たしていると納得した次第である。
中には恐らく海外でも通用するレベルを持つ演奏もあり、この大会の潜在力に深い感銘を受けた。
今回の出演者のような若い世代にとって、この時期に「夢中になる」ものに出会うことは重要なことである。
寝食を忘れて没頭するものが自己の中に価値観の軸の一つを作るとすれば、今回の出演者たちは皆、この僅かな時間のパフォーマンスに「夢中に」なっていて、ある意味自らを賭して臨んでいるように感じた。
そして歌唱や発音の技術はもちろんのこと、他者の気持ちを慮る必要性、集中力や協調性、創造性が不可欠であるこの大会への道のりは、彼らを確実に成長させる場となっていたのである。
流石に選ばれたパフォーマンスだけのことはあってその全てが水準を満たしていたが、それでも差がつくとすれば、若さやエネルギーはどのグループも備えていることに加えて、冷静な技術を自らの発信のためにどのようにコントロールし用いていたか、という点であろう。この課題において成果を挙げていた出演者からは、大きな感動を頂いた。
音楽のジャンルを問わず、表現には意思や感情と技術のバランスが重要であるということをここでも再認識した次第である。
大会の周囲で主催者側の多くのスタッフの皆さんが、この意味のある場面の成功という目標に向かって、熱意を持ってサポートに動いておられたのが強く印象に残った。
単なるイベントの成功を目指すのではなく、そのイベントの意義に共感しての動きであることは、一目瞭然であり、それがこの時間の「得難さ」を一層高めていたのである。
この大会を支えてこられた方々に心からの敬意を表したい。
今回のコンペティションをきっかけに、優れたアーティストの出現につながる予感は充分にある。
「英語による歌唱」という土俵からスタートしていることも心強い。
共に審査していた劇団四季の看板俳優さんが「共演出来る日が楽しみ」と感想を述べておられたが、決してお世辞ではなく、その日はすぐそこまで来ていることは確かである。
大阪音楽大学学長
本山 秀毅