芸術作品を作るときには、「お互いの提案をうけいれる」ことがとても重要です。
インプロヴィゼーション(以下、即興演劇)には「Say Yes」(直訳:「『はい』と言おう」)のルールがあります。このルールは「『はい』という言葉を、常に言う」ということではなく「お互いの提案を常に認めて受け入れる」という意味です。
YTJオリジナルミュージカル『wordplay』の打ち合わせをしている時、あるメンバーから「すこし変わった声で、演じてもいいですか?」と聞かれたことがあります。
僕の答えはもちろん「Yes」。そのメンバー自身が、他のメンバーやスタッフの提案も参考にしながら「変わった声で歌ってみよう」と感じてはいたようなのですが、スタッフからの“やってもいいよ、大丈夫だよ”というような承認を求めているようでした。
ここで例として、即興寸劇をご紹介します。
シーン①A:「やばい!雪がすぐ降りそう……」B:「そうだね、コートが欲しいよ。Tシャツしかなくて、そろそろ死にそう!」
シーン②A:「やばい!雪がすぐ降りそう……」B:「違うよ。夏だよ。暑いよ。」
①と②、どちらのシーンの方がわかりやすいですか?
シーン①には、BがAの提案を「Yes」の姿勢で受け入れて、これからストーリー展開が順調に進んでいきそうですよね。シーン②には、BがAの提案を「No」といって、受け入れておらず、Aは何と返せばいいか困るかもしれません。それに、このシーンが夏もしくは冬なのか、これからどのようなストーリーが展開されるのかも、誰にもわかりません。お互いの提案を受け入れないと皆が迷ってしまいかねません。
続いては、レッスン環境についてです。2つのうち、どちらのレッスンが良いでしょうか。
レッスン① 子供:「変な声で歌ってもいいですか?」
大人:「もちろん、いいですよ!変な声がどんな声なのか聞きたいので、ぜひ歌ってください。もし歌詞が分かりづらくなってしまうなら、調整する必要がありますが、まず聞いてみたいです!」
レッスン②子供:「変な声で歌ってもいいですか?」
大人:「私が言ったようにできるなら正しい歌い方をわかっているはずなので、質問せずに、私と全く同じようにしてください。それならOKです」
クオリティーの高い作品ができたり、他人に優しく、幸せな大人に成長するだろうと感じることのできるレッスン環境はどちらでしょうか。
YTJでは、パートナーシップという概念を大事にしています。
パートナーシップは「お互いの違いを受け入れること」から始まります。もちろん、意見の全てが受けいれられるわけではありませんが、結果よりも、まず提案してもいいと皆が感じる雰囲気が大事です。自分の意見を言うこと、みんなの本当の意見を聞くこと、これが想像力を身につける大きな助けになります。
対話をし、お互いを認め合い、尊敬し合う環境こそ成長できる環境である。YTJのスタッフにも、YTJメンバーにも、パートナーシップという考え方を大事にしてもらい、冷静に話し合う力を持つことでリーダーシップも発揮できる人間に成長してもらいたいと願っています。
『wordplay』に参加するメンバーに、僕は必ず「キャラクターについては、まず自分で考えてみてください。アイデアを入れてくださいね」と毎年伝えるようにしています。そのおかげもあって、たとえ同じキャラクターを演じても、メンバーのパフォーマンスは十人十色。皆それぞれが、個性豊かな表現をみせてくれます。
また昨年の『wordplay』では、保護者さんとメンバーからTシャツのデザインを募集しました。スタッフだけでは絶対に考えることができない程のアイデアを頂きました。YTJに入会するための選考試験では、受験生一人一人と会話をして「どんなことが好きですか?」、高学年の場合「なぜYTJに入りたいですか?」を聞いています。これもすべてパートナーシップを目指しているからこそ。そして、YTJに入る前から、心に残るメンバーが毎回います。
この他にも、パートナーシップがより活かされる場面がYTJの活動の中には多くあります。パートナーシップというのは子供の成長に影響を与えることがあるので、それを意識した環境の中で活動をするのは、とても意義があります。
子供と大人がお互いを受け入れる環境を整えることで、多様性をテーマにした作品とレッスンに、違和感なく取り組むことができるはず。
つまりこれらを実現するために、"お互いを受け入れる"パートナーシップには「Say Yes」から始めて見ることが必要だと感じています。
劇団代表
グレゴリー・ウルフ
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「“仲間と表現する楽しさを伝えたい” 新劇団代表が語る、これまでの歩みと未来」
インタビュー記事②
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